アゼル： 風が吹いている。
アゼル： どこか、熱い風――……風に色が在るのならば、今は赤いのかもしれない。
アゼル： その風に吹かれ、思う。

アゼル： 誰も彼もが幸せに笑えればいいのにと。

アゼル： だが、それはこの世界では無理なのだろう。
アゼル： 何かを得るためには、何かが失われて――無から有を生むことなど、できはしないのだから。
アゼル： そんなことは、判っていた。


アゼル： 立ち上がる。

アゼル： 千切れた草が、風に舞い、飛んでゆく。
アゼル： 風は熱を帯び、じゃれる様に自分に絡みつく。
アゼル： それをどこか、心地よく感じながら、男は一歩を踏み出す。


アゼル： 目の前で、振り向かれた。

アゼル： 微笑み、緩やかに手を挙げ、近づく。
アゼル： 判っていたはずだった。
アゼル： 無から有を生み出すことなど、できはしないと。


アゼル： それでも。


アゼル： 諦められなかった。
アゼル： 誰もが、笑いあうためには必要なことだったから。
アゼル： その行き着く先を、いつしか求めていた。
アゼル： そして、それにいつしか触れ始めていた。


アゼル： そっと、抱きしめる。

アゼル： 無から生まれる有。ソレを手にした。
アゼル： 奇蹟の産物たるそれの名を、今は知っている。

アゼル： 「――――」

アゼル： 名を呼んだ。お互いに笑いあう。
アゼル： そうだ。
アゼル： ヒトは笑いあえる。全ての立場を等しくして。
アゼル： その為に必要なもの。その名を――



アゼル： 　　　――愛という。

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